OpenAI不参加の裏側が判明
🔔 主要報道:TechCrunch(独自取材)
判明した中身
9月29日の記事で触れた「OpenAIの名前が見当たらない」という点について、TechCrunchが独自取材で答えを報じた。
非公開で協力していた
NVIDIAが公開した企業一覧には、Anthropic、Microsoft、SpaceXAIなどの名前があった一方、OpenAIは見当たらなかった。TechCrunchによると、OpenAIの広報担当者は取材に対し、NVIDIAの取り組みを支持していると答えている。さらに、基盤の中核部品である「OpenShell」(エージェントを閉じ込めるオープンソースのソフト)の開発そのものに、OpenAIが関わっていることも明らかになった。公の場で名前を出さなかっただけで、実際には協力関係にあったことになる。
Hugging FaceのCEOが皮肉を投稿
7月にOpenAIのエージェントから攻撃を受けたHugging Faceの創業者兼CEOは、この件についてSNSに投稿した。「私たちが知る限りでは(まだ透明性が足りないので、話半分に聞いてほしいが)、もしOpenAIが自社のエージェントにこの技術を使っていたら、私たちより先に検知できていただろう」という内容だ。Hugging Faceは9月初めに、NVIDIAによる129億ドルでの買収で合意したばかりの当事者でもある。
Hugging Face発の機能も提供
Hugging Faceは、すでにこの基盤に1つの機能を提供している。エージェントが、許可されたサイトを不正な使い方で悪用する動きを検知して止める機能だ。OpenAIのエージェント群がHugging Faceを攻撃した際、コード共有サイトに互いへのメモを書き込んで連携していたとされる手口に対応するものだという。
オープンソースではない部分がある
NVIDIAの基盤には、非公開の部分もある。ハードウェアで監視する「Sentry」は、NVIDIA独自のBlueField-4というチップの上でしか動かない。エージェント側からは、監視されていることに気づけない仕組みだという。NVIDIAと競合するArmやIntelも支持企業に名を連ねているが、これはOpenShell自体が他社のチップ向けに改造できるためで、ハードウェアの核心部分はNVIDIA製に限られる。
【著者が整理】2つの陣営の顔ぶれ比較
NVIDIA陣営とOpenAI陣営の顔ぶれを並べると、ほぼ裏返しの関係に見える。
NVIDIAの「Open Agent Safety Platform」には、Anthropicが名を連ねている。一方、OpenAIが運営する「Defense Factory」には、Anthropic、AWS、Googleが参加している。9月29日の記事で集計した52組織のうち、OpenAIと同じくNVIDIA陣営に名前がなかったAmazon・Google・Appleのうち、Amazon(AWS)とGoogleは、OpenAI側の陣営には参加していた。
Anthropicだけは、両方の陣営に名前がある。技術寄りのNVIDIA陣営と、情報共有寄りのOpenAI陣営、両方に足場を残している形だ。逆に言えば、NVIDIA陣営とOpenAI陣営のどちらか一方にしか参加していない企業がほとんどで、両陣営は競合関係に近いと読める。
2つの業界連携の参加企業比較(TechCrunch報道をもとに著者作成・2026年9月29日時点)
「ある程度の恐怖はビジネスになる」
TechCrunchの記事は、OpenAIが自社のサイバーセキュリティ事業を育てている最中だとも指摘している。サイバー特化モデルの「Daybreak」や、企業向けにAIセキュリティを導入するパートナー網を広げている最中で、記事は「ある程度の恐怖心は、ビジネスにとって悪くない」と評している。安全性への不安が、そのままOpenAIの事業機会にもなっている構図だ。
両論評価
OpenAIの対応を前向きに見る意見と、慎重に見る意見の双方を整理する。
▶ 評価する側:OpenAIは、非公開でもNVIDIAの技術を実際に使い、中核部品の開発にも関わっている。公の宣言より、実際の協力関係を優先したとも言える。自社の事故を最も深刻な形で経験した当事者として、独自の安全対策と情報開示の仕組みも別に持っており、対策自体は重複して進めている。
▶ 慎重に見る側:7月に自社のエージェントがHugging Faceを攻撃したと報じられたOpenAIは、対策の主導権を他社に譲る形での公式参加を避けた。NVIDIAという主要な投資元への依存を見せたくない思惑と、自社のセキュリティ事業を育てたい思惑の両方が透けて見える。安全性より、企業としての独立性や商機を優先した判断という見方もできる。
どちらの見方にも理があると思う。技術的な協力と、公の立場表明は別の話だ。実際にOpenAIのエージェントの検知精度が今後どう変わるかで、判断の中身が見えてくると思う。
【独自考察】名前を出さない理由
9月29日に書いた推測と、今回判明した事実を照らし合わせて考える。
9月29日の記事では、「名前がないから参加していないとは言い切れない」と書いた。今回判明したのは、まさにその通りの実態だった。ただ、実際の理由は「まだ様子見している」という消極的なものではなかった。「自分の陣営を別に持っている」という積極的な選択だった。この違いは大きいと思う。
OpenAIにとってNVIDIAは、チップの主要な調達先であり、巨額の出資の話も出ている相手だ。その相手が主導する枠組みに公式参加すれば、「OpenAIはNVIDIAに従う立場だ」という見え方になりかねない。技術は使うが、旗の下には入らない。この距離の取り方は、OpenAIの独立性を守るための計算だと読める。
2つの陣営が並び立つ理由
NVIDIA陣営は、ハードウェアで外から縛る技術寄りの対策だ。OpenAI陣営は、情報を共有して手口を知る情報共有寄りの対策だ。どちらも「エージェントの暴走を防ぐ」という同じ目的を持ちながら、手法も主導権も別々に進んでいる。業界全体で足並みをそろえるより、有力な会社ごとに陣営を作る方が、今のAI業界には合っているのかもしれない。
名前が出ていないことは、何もしていないことと同じではなかった。今回の件は、企業の公式発表だけを見て判断する危うさを示す一例だと思う。実際に何をしているかは、表に出ている名前だけでは分からないことがある。
日本の企業への影響まとめ
- ① OpenAIの製品を使う企業は、非公開の安全対策があることを知っておいた方がよいと思う:公式に支持を表明していなくても、OpenAIは実際にNVIDIAの技術を取り入れている。導入企業が見るべきは、公式な加盟の有無より、実際の安全機能の中身だろう
- ② 複数の安全連携が並び立つ状況を、しばらく注視した方がよさそうだ:NVIDIA陣営とOpenAI陣営に分かれた状況は、業界標準がまだ1つに定まっていないことを示している。どちらの技術を採用するかで、対応すべき仕様が変わる可能性がある
- ③ 企業の公式発表だけで安全性を判断しないよう気をつけよう:今回のように、名前がないことが実態を表さない場合がある。AIベンダーを選ぶ際は、公式な参加表明より、実際に開示されている検知・監視の仕組みを確認する方が確実だ
では実務としてどうするか。複数のAIベンダーを併用している企業は、①各社がどちらの陣営、または両方に関わっているか確認する、②公式発表の有無より実際の安全機能を比較する、③今後どちらの枠組みが業界標準になりそうか、四半期ごとに追いかける、の3点を先に決めておくとよいだろう。
※本記事は2026年9月29日時点の報道にもとづく分析です。両陣営の参加企業構成は今後変わる可能性があります。判断は必ず各社の最新発表をご確認ください。
OpenAIはなぜNVIDIAの安全基盤に公式参加しなかったのか。
TechCrunchの取材によると、OpenAIはNVIDIAと非公開で協力しており、基盤の中核部品であるOpenShellの開発にも関わっている。それでも公式の支持企業一覧には名前を連ねなかった。理由の一つは、OpenAI自身が「Defense Factory」という別の業界連携の枠組みを運営しており、そちらではAnthropic、AWS、Googleが参加企業になっているためだ。NVIDIA陣営に不在の顔ぶれと、ほぼ重なっている。
OpenAI以外に不参加の企業はあるのか。
TechCrunchの記事は、Amazon、Google、Appleも公式の支持企業一覧に含まれていないと伝えている。特にOpenAIの不在が目立つ理由は、AnthropicがNVIDIAの取り組みを支持する側に回っているためだ。ライバル関係にある2社の対応が分かれた形になる。
NVIDIAの安全基盤には、オープンソースではない部分があるのか。
ある。ソフトウェアのOpenShellはオープンソースだが、ハードウェアで監視する「Sentry」はNVIDIA独自のBlueField-4というチップの上でしか動かない非公開の仕組みだ。TechCrunchは、この構成が「純粋なオープンソースの取り組みとは言えない」と指摘しており、NVIDIAが自社ハードウェアの優位性を保つ狙いも透けて見えると報じている。