AIの「ハルシネーション」問題。Anthropic調査で不信頼性が最多懸念に(26.7%)

ノートパソコンの画面にAIが「シドニーはオーストラリアの首都」という誤った情報を表示しているイメージ。「Hallucination(ハルシネーション)」の文字とともに、AIの不正確な回答問題を象徴する写真

AIの最大の懸念は「仕事」ではなく「信頼性」だった――Anthropic 8万人調査

独自分析

Claudeユーザー80,508人を対象にした調査で、最大の懸念は「仕事が奪われること」(22.3%)を上回る「AIの答えが信頼できないこと」(26.7%)だった。Anthropicが2025年12月に実施したこの調査は、159カ国・70言語にまたがる。「過去最大級の質的調査」というのはAnthropic自身の主張であり、対象はAnthropic自社サービスのユーザーに限られる点は踏まえておきたい。

なぜ「信頼性」が最大の懸念になったのか?最新データが示す実態

「AIは仕事を奪うのか」という問いは注目されやすいが、実際にAIを使っている人が一番気にしているのは別のことだった。Anthropicの調査では、回答者は平均2.3個の懸念を挙げており、その中で最も多く挙げられたのが「不信頼性」だった。

独自集計

Anthropicが公開した懸念ランキングを見ると、不信頼性(26.7%)は2位の仕事・経済(22.3%)に4ポイント以上の差をつけて首位に立っている。3位は自律性の喪失(21.9%)、4位は認知的な衰え(16.3%)、5位はガバナンスの欠如(14.7%)と続く。懸念が「ない」と答えた人はおよそ11%にとどまった。

この結果はAI全般に対する世論調査というより、すでにAIを積極的に使っている層の声だという点は割り引いて読む必要がある。回答者はClaude.aiのアカウントを持ち、実際にインタビューに応じた人たちであり、AIをまだ使っていない人や使うのをやめた人の声は含まれていない。

※この調査はClaude.aiのアカウントを持つユーザーを対象に実施された。回答内容はAI全般についての利用体験を反映しているが、母集団はAI利用者の中でも早期に採用した層に偏っている可能性がある点には注意が必要。

懸念の内訳を見ると、上位3つの項目でほぼ7割を占めている。

AIユーザーの懸念ランキング。不信頼性26.7%、仕事・経済22.3%、自律性の喪失21.9%、認知的衰え16.3%、ガバナンス14.7%

出典:Anthropic「What 81,000 people want from AI」(2026年3月18日公開)

地域・職種による違い

地域による違い

Anthropicによれば、不信頼性・仕事・自律性への懸念はほぼすべての地域で上位を占める。一方で、北米とオセアニアはガバナンスの欠如への懸念が突出(18〜19%、世界平均15%)し、西欧はプライバシーと監視への懸念が最も強い(17%)。東アジアはガバナンスや監視への懸念が最も低く、その代わりに認知的な衰え(18%)や、AIに意味や存在意義を奪われる懸念(13%)が相対的に高い。

職種による違い

意思決定の場面でAIの判断力に期待する人は22%、不信頼性によって判断を誤ったと答えた人は37%だった。Anthropicが調査した5つの「緊張関係」のうち、期待より懸念のほうが大きかったのはこの領域だけだったという。特に弁護士・金融・政府・医療といった高リスクな職種では、その頻度が平均のおよそ2倍に達する。弁護士はほぼ半数が不信頼性を直接経験したと回答している。

なぜ「不信頼性」がこれほど大きいのか

独自考察

この結果が示しているのは、AIが「間違えること」自体よりも、「間違いに気づきにくいこと」への疲労だ。

自信満々に間違えるという構造

Anthropicが紹介した体験談の一つに「一貫していて自信満々だが、微妙かつ積み重なる形で間違っている大きなハルシネーションに巻き込まれた」という研究者の声がある。誤りが分かりやすい形で現れるなら対処もしやすいが、一見もっともらしい文章の中に混ざっている場合、気づくまでに時間がかかる。

確認作業がAIを使う意味を薄める

ある回答者は「自信満々だが度々間違えるアシスタントは、あらゆることを疑わせる。注意力を解放するはずが、恒久的な『ファクトチェック税』を生んでいる」と表現した。時間を節約するためにAIを使ったはずが、検証作業によって節約分が相殺されてしまう、という逆説がここにある。

まとめ|著者が見る本質

この調査で興味深いのは、「AIの判断支援に期待する人」より「不信頼性に苦しんだ人」の方が多かったという点だ。期待より実害が先行しているという意味では、AIの信頼性は「これから解決される課題」というより「すでに日常的なコストとして定着しつつある課題」と捉えるほうが実態に近い。

著者による独自考察(2026年9月25日)

個人としてどう付き合うか

不信頼性への懸念が大きいからといって、AIの利用を避けるのが現実的な解決策とは言えない。重要なのは、どこで疑い、どこである程度頼っていいか、線引きを持つことだ。

01
数字・固有名詞・引用は必ず裏取りする 統計値や人名、書籍・論文のタイトルなど、具体的すぎる情報ほど誤りが紛れ込みやすい。特に「詳しそうに見える」回答ほど疑うべきだ。
02
意思決定に直結する場面は一次情報で確認する 法律・医療・金融など、判断を誤ると実害が出る領域では、AIの回答を参考情報として扱い、必ず公式情報や専門家の確認を挟む。
03
「自然な文章」と「正確な内容」は別物と考える 滑らかで自信のある口調は、内容の正確さを保証しない。むしろ断定的な言い回しほど、一度立ち止まって確認する価値がある。
04
ブレインストーミングや下書きには積極的に頼っていい 正確性より発想の幅が求められる場面では、多少の誤りがあっても人間が最終判断すればカバーできる。不信頼性のリスクが低い使い方から慣れていくのも一つの手だ。

日本への示唆

Anthropicの調査では、東アジアは認知的な衰えへの懸念が最も高い地域として名指しされている。この結果が日本にどこまで当てはまるかは、地域単位のデータであり日本単独の数値ではないため断定できない。ただし、正確性やミスの少なさを重視する文化的傾向を踏まえると、不信頼性への懸念が今後さらに顕在化していく可能性は十分に考えられる。

個人としては、AIの回答を「そのまま使う」か「まったく使わない」かの二択で考えるより、場面ごとに確認の手間をかけるかどうかを判断する習慣を持つことが、現実的な備えになるだろう。

よくある質問

AIの答えはどこまで信じていいのか?

重要な決定に関わる内容ほど、AIの回答をそのまま使わず一次情報で確認することが推奨されます。Anthropicの調査では、意思決定の場面でAIを使った人の37%が不信頼性による支障を経験したと回答しており、特に法律・金融・医療など高リスクな領域で顕著です。

AIの間違いはどうやって見分ければいいのか?

断定的な数字や固有名詞、引用文には特に注意が必要です。Anthropicの調査では「一貫していて自信満々だが、微妙かつ積み重なる形で間違っている」という体験談が紹介されており、表面上の自然さと正確さは別物だと認識することが重要です。

なぜ仕事の不安より信頼性への不安の方が大きいのか?

Anthropicの調査では、AIによる意思決定支援に期待する人が22%だったのに対し、不信頼性を懸念する人は37%に達し、唯一「懸念が期待を上回った」領域でした。実際に使う中で誤りに直面する頻度が高いことが背景にあります。

まとめ

不信頼性26.7%、仕事・経済22.3%という順位は、AIをめぐる議論の重心が「奪われる恐怖」から「信じていいのかという疑問」へ移りつつあることを示している。便利さと信頼性はトレードオフの関係にあるからこそ、懸念が強まっている今こそ、個人としての付き合い方を設計しておく価値がある。

主な出典

  • Anthropic「What 81,000 people want from AI」(2026年3月18日公開)

著者:Daisuke|確認日時:2026年9月25日 20:00 JST

著者コメント:この調査はAnthropic自身が実施したものであり、対象もClaude.aiユーザーに限られます。「懸念が期待を上回った唯一の領域」という結果も含め、Anthropic自身がどう見せたいかという編集意図が数字の選び方や見出しに反映されている可能性は常にあります。そのうえで、実際にAIを使う人が仕事より信頼性を先に気にしているという傾向自体は、割り引いて読んでも興味深いデータだと感じています。